専門俳人を目指しています。俳句評論執筆のための文章修練、及び俳句実作。厳しい批評をお待ちしております。

# 二十四節気俳句生活

# 矢作俊彦 「ららら科學の子」



三島賞受賞作。
1968年、学生運動で指名手配を受けた主人公は紅衛兵となるために中国に密航する。
文革の方向転換で下放されて農村に30年、今度は蛇頭を頼って帰国してきた。
1998年、中国も都市部ではかなり発展していたはずだが、辺境にいた主人公にとって日本は変わりすぎており、現在では裏社会の顔役となっていた旧友の助けを借りてかつての「自分」を取り戻してゆく。
中国時代の「回想」がところどころ散りばめられて、全編を読み通せば中国での30年も浮かび上がってくる。

★★★★★
純文学系の三島賞受賞作であるが、中身は矢作俊彦らしいハードボイルド作品。


この本のタイトルを見て、俳句を嗜む人は小川軽舟の句、

かつてラララ科学の子たり青写真

を連想する方も多いのではないかと思うが、読んでいるうちにこんな記述が見つかった。

「写真の長嶋は、白髪の老人だった。先刻、洋服屋の店先に映った自分の姿より、それは胸に痛かった。(126p)」

これは
日記果つ父老い長嶋茂雄老い

を連想させる。どちらも『呼鈴』(2012)所蔵。

本書が単行本化されたのは2003年であるから、もしかしたら小川軽舟は本書を読んで上記2句を創作したのかもしれない。
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# フィル・ナイト 「シュードッグ」


ナイキ創業者、フィル・ナイトの自伝。

私はナイキは履かない。昔はよく履いていたが、ここ数年、スポーツシューズはアシックスと決めている。耐久性が全く違うのだ。
ナイキの靴は、本書にも書かれているエア・シリーズも含めて、1~2年でソールが剥がれたり、エアの空気が抜けたりする。アシックスは丈夫である。10年くらいは平気だ。スポーツシューズは10年も履けるように設計されていないのかも知れないが、アシックスはそれを可能としている。

本書はそのアシックスがオニツカ、ナイキがブルーリボンという会社名だった頃から始まる。
フィル・ナイトはオレゴン大学の陸上中長距離の選手であり、スタンフォードでMBAを修め、後にプライス・ウォーターハウスで会計士になるという、本来であればビジネス・エリートにもなれる経歴の持ち主であるが、一つのアイデアを持っていた。
日本のカメラメーカーがドイツ、ライカの牙城を崩そうとしていた1960年代、アディダス、プーマが世界を席巻していたスポーツシューズの世界でも同じことを起こせる可能性がある、つまり、日本のオニツカが市場のドイツ勢を駆逐する可能性があると踏んだのである。
会計士の仕事をしながらオニツカの米国での販売代理店として会社を育て、事業を拡大したところで、当のオニツカから乗っ取りを企てられる。
そこで彼は自社ブランド「ナイキ」を立ち上げて、世界的な、いや世界一のスポーツシューズブランドを目指そうとする、創業の1962年から株式公開の1980年までが描かれている。

創業者が会計士であり、財務に明るいからかギリギリのキャッシュフローで経営し、事業は拡大に継ぐ拡大路線を取ることから、時に経営危機に陥ったり、またオニツカに裏切られた後、助けたのが同じ日本企業の日商岩井であることもあり、日本への「愛」をところどころ披瀝したりしながら、物語はスリリングに進んでいく。

最後に、現代の彼と彼を取りまく人々の状況を描くとともに、「やり残したこと」として本書を書く決意をするところで物語は終る。

これは映画化されるのではないか。

★★★★☆
読みやすく、最後まで飽きずに読める、ベストセラーになったことも納得の一冊である。

# 万城目学 「とっぴんぱらりの風太郎」(上)(下)



この作者の作品はどれも好きだが、この初めての時代小説もなかなかイケる。
というより現代を舞台とした作品より面白い。万城目学の現時点での最高傑作ではないだろうか。

伊賀の忍者が主人公。
筒井家が改易となり、藤堂高虎が城主としてやってきて、軽く扱われるようになった忍者たち。主人公は風太郎だが、同年代の若い忍者たちの群像劇としても物語は進んで行く。
舞台は伊賀から早々に京に移り、そして大坂。史実に忠実(?)に、慶長18~20年頃を舞台に、大阪夏の陣までが描かれる。
歴史に残らない忍者や市井の人々は、本当にいてもおかしくないように描かれるし、伝説の果心居士なども登場し、万城目学らしいファンタジーにも彩られる。
アクションシーンはなぜか、「ハリー・ポッター」シリーズを思い出してしまった。
御土居など、京の町の描写も史実に基づいている。

挿絵もいい。
読んではいなかったが、連載していたのを覚えていた。誌名は忘れていたが週刊文春だったようだ。

★★★★☆
大傑作だが、ラストはあれでよかったのか?

# 白河三兎 「神様は勝たせない」


白河三兎は、この作品がそうであるように、やはりファンタジー色のない作品の方が出来がいい。例えば、傑作と言える
プールの底に眠る」や「私を知らないで
  
のような。

この作品も、上記2作に通じるところのある、恋愛要素と、ちょっとしたトラブルを描く青春小説である。

本作は、中学校のサッカー部、3年生の最後の大会。敗色濃厚となったチームの5人に焦点を当てた物語構成となっている。
どうも、試合前にあった中心選手のトラブルが元でチームがバラバラになり、相手が格上のチームとはいえ劣勢となっているようなのだが、そのトラブルは終盤まで明かされない。そしてそこに至るまでの人間模様が描かれている。

伏線は散りばめられているが、ちょっと想像もつかないような「秘密」が隠されていた。

★★★☆☆
時間軸がバラバラすぎて少し読みにくかったかな?

# 仮面同窓会



少し前の作品だが、どこかで書評を読んで気になっていた。現実でも、十日後に久しぶりに同窓会がある。

舞台は「愛知県内で、名古屋へ電車で行けて、東名高速が走っている」ので、小牧か春日井あたり。
同窓会で久しぶりに会った悪友たちが、暴力教師に仕返しをするところから物語は始まる。

レビューを読むと賛否両論なのだが、私は面白かった。
★★★★★

「少しお灸をすえた」だけの元教師が遺体で発見され、ラストのどんでん返し。


葉桜の季節に君を想うということ


や、
イニシエーション・ラブ


のような、「もう一度最初から読み直したくなる一冊」の系譜である。

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

# プロフィール

鈴木霞童

Author:鈴木霞童
平成25年「天穹」入会。30年同人。
定年後に専門俳人になることを目指して修行中。

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