専門俳人を目指しています。俳句評論執筆のための文章修練、及び俳句実作。厳しい批評をお待ちしております。

# 二十四節気俳句生活

# 「俳句界」5月号鑑賞

蓋開いて箱に仔猫の三匹も  小澤實

昔よく見かけた捨て猫も、すっかり見かけなくなった。かつては、それでも誰かが拾って育ててくれたのだろうが、今はそれも期待薄、ということだろうか。「三匹」がリアルである。

郭公や斜度を増しゆくロープウェー  小山徳夫

ロープは撓むので、確かに頂上付近は最も斜度がきつくなるが、それ以上に僅かな時間で、麓から郭公が似合いの深山へ一気に運ばれる異世界性が面白い。風景ががらりと変わるさまを上手く切り取っている。

万緑や原子炉裸見せしまま  五島瑛巳

「万緑」が効いて原子炉と呼応している。あれから6年、木々に吸収された放射性物質もだいぶ崩壊してきただろうか。

老木と思へぬ山の若葉かな  杉本艸舟

生命感に満ち溢れている若葉、木が老木であることも一瞬忘れ去るほどである。

星涼し森に化石を眠らせて  環 順子

全身骨格が発見された「むかわ竜」のニュースは新しいが、まだまだ未知の化石が眠っていそうだ。

地球より酸素の洩るる良夜かな  姜 琪東

どんなに月が近く見えても、地球から遠く離れた大気のない世界。とはいえ、ちょっと信じがたく、空気のある夜空に浮かんでいるようにも見えます。

囀りや鳥にはじまる修羅の日々  川上呉郎

六道で人間と畜生の間の修羅。囀る小鳥も来世は人間に生まれ変わるか、あるいは前世は人間で俳句でもひねっていたか。
・・・という風に解釈したが如何。

竹皮を脱ぎて土の香捨てにけり  大矢恒彦

一気に伸びる筍。数日前まで土の中にいたとは全く思えないほど見事な若竹となる。
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# 「天穹」5月号鑑賞(5)

毎月それなりの自信作を投句しているが、掲載順は色々である。自分の句の良し悪しはなかなかわからないものだが、他の会員の方々の句と並べられているのを順々に読むと、掲載順位には深く納得する。

渋谷春店の外までチョコレート  田中国太郎

流行の発信地、渋谷。時期になるとチョコが溢れるのは他の街と一緒ですが、何か特別感がありそうな気がします。「渋谷」が効いている。

風邪に寝る妻に一日を仕る  星加鷹彦

もしかしたら句会の予定が入っていたかも知れません。言葉にすることの苦手な日本男児の愛情表現です。

今もいつかは昔とならむ檜植う  白木伸子

時間の経過を俳句で詠むのは難しいと言われますが、この句は成功しています。「今」と「昔」を使い「未来」を表現しているところも魅力的です。

節分や横綱の手に小さき豆  芹澤修士

力士と豆撒きの取り合わせの句は多いですが、この句は手の大きさと豆の小ささの対比が面白いです。

鳥帰る往復はがき投函す  前川尚子

何の往復はがきかわかりませんが、同窓会などの案内状を想像すると、返事が来ないのが何通か、全員が帰れるわけではないであろう「鳥帰る」と呼応しているように感じます。

山笑ふ土木学部の道普請  籠田和美

どういうものか想像でしかないが、学生が実習で「道普請」をしているのか、それとも単に土建屋さんにインターンで入っているのか。未知の領域なので興味は尽きないが、若い人が見よう見まねで将来目指す道に進もうとしている姿が、「山笑ふ」に合う。

朧月パン種ちやうど良き加減  鈴木とも

一次発酵、二次発酵とパンを焼くまでの待つ間の楽しさ、そして酵母の薫り、まして朧月を眺めながらなんて、なんて贅沢な時間でしょう。

春雷や思わぬ打者の三塁打  益井善清

ロバート・レッドフォードがオールドルーキーの主人公を務めた映画『ナチュラル』を思い出しました。贔屓のチームでのことであれば春雷は幸運の予兆です。

椅子ずらす音一斉に新入生  唐笠美智子

無論小学校の入学式でしょう。厳しい先生の元、何度も練習を重ねたに見えます。上手く揃ってお見事、と言えるでしょう。

麗日や医院に響く「あら元気」  川崎まさを

医院で出会ったのだから元気なわけないのですが、この日本ではありそうです。先日読んだ本には、日本の医療の「アクセスの良さ」が取り上げられています。アメリカではお金がないとかかれないし、医療が無料の国は医師の診断を受けることは簡単ではないとのこと。

草萌ゆる「春の小川」の碑有りけり  林敏博

私も行ったことあります。参宮橋駅の近く。「こんなところに」と今では驚くほどの都会です。近くにあった刀剣博物館はこの三月末で閉館し、来年両国に移転するようです。


(以上、「花篝」欄よリ。)

# 「天穹」5月号鑑賞(4)

ややこしき人の嫉妬や猫の恋  藤本さな女

なんでこんなことまで、と思うほど人の嫉妬の種は尽きず、気をつけていないと妙なことに巻き込まれかねません。自由そうな猫の恋愛が羨ましい?

ものの芽へ蠢くものに犬の鼻  山下早千子

犬の鼻との取り合わせがお見事です。冬が終わり、景色が変わってきた様子に犬も興味津々です。

空白のスコアボードや土手青む  島田道世

河川敷の野球場でしょうか。スコアボードを使わないほどの、草野球までいかない気楽なお遊びか。のんびりした様子が伝わってきます。

冴返る外科病棟の常夜灯  利光克孝

外科病棟ですから、深夜の常夜灯は何か特別な意味合いが見い出せそうです。「冴返る」が効いています。

春浅き夜をサックスの叫びかな  坂場正保

浅い春の夜、当然まだ寒い時期ですが、肺活量を使うサックス奏者はそれほど厚着はしていないはず。薄着で必死に吹いている様はまさに「叫び」。季語も「サックス」も動きません。

春来る小町通りのクレープ屋  浜崎かづき

四季折々の楽しみのある鎌倉、春が来て少し人も増えてきた頃でしょうか。冬牡丹もいいですが、クレープもまたいいですね。

喰積の味年毎に薄くなり  山川千鶴子

基本的には味付けの濃いお節料理。生活習慣病予防のため、工夫して塩分を抑えているのでしょう。主婦の知恵と努力が伺えます。


(以上、「風霜」欄よリ。)

# 「天穹」5月号鑑賞(3)

赤紐のスポーツシューズ青き踏む  藤栄誠治郎

「赤紐」と断っているということは靴の本体は赤ではなく別の色(例えば黄色)、また「青き踏む」といっても実際には緑か黄緑、更にいえばまだまだ枯れ草も多い状態であろう。色々な「色」を想像できて楽しい。

寒鰤や家持の憂さ癒しけむ  塚本一夫

家持が赴任していた時代から越中が寒鰤の産地だったかはわかりませんが、時の政変に翻弄されつつも政治家として、また歌人として名を残した家持と、出世魚である寒鰤が響き合っているように思います。

啓蟄や弱気はげます万歩計  鈴木優子

ついつい億劫になってしまう運動も、例えばウォーキングであれば万歩計の数字が増えていくことで「励まされている」気がします。万物が動き出す啓蟄ならではの句です。

子を膝に子育て論や雛の客  佐藤俊童

「正解はない」と言われる子育て。経験豊富な年配者か、はたまた今流行りのイクメンか、客の一家言を聞き流しているようにも読み取れます。

墨堤に居並ぶ膝や桜餅  大町千枝

隅田川沿いにある長命寺、桜餅を買った側から墨堤に座り、川を眺めながらいただくのは気持ちのいいことでしょう。


(以上、「風韻」欄よリ。)

# 「天穹」5月号鑑賞(2)

天帝へ何告げゐるや揚雲雀  菅原研吾

お喋りな雲雀、人間でお喋りな人には秘密の話は出来ませんが、この雲雀は誰から何を聞いて天帝にご注進に行ったのでしょうか。

飛梅や任地に妻の文を待つ  屋内修一

現代的に考えてみると、南国に赴任したご主人、故郷では咲いていないであろう梅のほころぶ写真を撮ってLINEか何かで妻に送り、その場で返事を待っているかの景が見えてきます。

隠沼に差し込む光竜天に  山本玲香

光が差し込むのですから森の中の隠沼でしょう。まさに竜が登っていく光景に思えます。

人の来ぬ電話ボックス春一番  村井郁子

ポツンと立っている電話ボックス。吹きさらしに隙間から砂埃も入ってきそうです。携帯電話が普及しても緊急時のために今でも一定間隔で配置されていますが、春一番の吹く日には使う人があるようには思えません。

嚔やしあはせ過ぎも落ち着かぬ  福井まさ子

何かよほど良いことがあったのでしょう。天にも登る気分の中で一つの嚔、現実に引き戻された瞬間だったかも知れません。

吾を踏めと声聞こえさう絵踏板  前田勝洋

不本意ながら絵踏を行った隠れ切支丹は、イエスやマリアの慈悲の心を信じて踏んだのでしょう。場合によっては「吾を踏め」と絵が信者に語りかけて来たかもしれません。


(以上、「風尚」欄よリ。)

# プロフィール

鈴木霞童

Author:鈴木霞童
平成25年、俳句結社「天穹」入会。
定年後に専門俳人になることを目指して修行中。

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