FC2ブログ

『男一代 ― 』

句会の選句(ここ数ヶ月通信句会となっている)をしていて、この本をまだこのブログで紹介していなかったことを思い出した。

『自得俳句教本 愛誦百句 「男一代 ― 」 終らんとして柏餅』
2005男一代

「天穹」の祖師である松野自得(1890-1975)の百句選の他、随筆や寸言、東京美術学校(現在の芸大)で学んだ画家でもあるため色紙のグラビアなど盛り沢山であり、「天穹」会員はまずこの本で自得を学ぶ。つまりは教科書になっているわけである。
タイトルは、自得辞世の句である、

男一代終らんとして柏餅

から来ている。

かぼちや可愛や煮るまでひざに抱いてやる
遍路笠諸行無常の墨にじむ
蝌蚪の群墨絵の龍のゆく如し
馬鈴薯がニキビのやうな芽を吹ける
若鮎の小さき胸も焼かれたり
虚子の訃に瞳ぬらしぬ甘茶仏


自得はまた、前橋市最善寺の住職でもあり、仏生会と同じ日に身罷られた虚子へ手向けた句であるが、あまり知られていないのが残念である。

月の鎌切れた蜥蜴の尾が踊る
あやめ田のあやめの水が米搗けり
灯蛾狂ふ疲れて落つる迄狂ふ
句碑の文字読めない蟻が覗き行く
回覧板さんま焼く手を拭いて受く


代表句とされる「風吹けば風から生れ赤とんぼ」もそうであるが、虫など小動物を題材にとった句が多いのが特徴的である。同じく虫の句が特徴的な高野素十と比べて、素十が「生」に重きを置いているのに比べ、やはり僧であるためか、「死」を意識させる句が多い気がする。また、僧でありながら殺生の句も平気で作っている。

飼馬桶ひつくり返し馬肥ゆる
蝗さへ胸は柔か串に刺す
観音に窓あり秋の雲近く


東京湾観音だろうか。そういえば子供の頃行ったきりで、もう40年以上訪れていない。

花芒一茶の墓をくすぐれる
ちる紅葉焚いて野点の湯を沸かす


師の句としてはやや珍しい(?)浪漫主義的な一句。

蜻蛉の目死んでもつぶる瞼が無い
虫眼鏡に虫拡大されゐて知らず
榾焚くや穴より虫が焼けて落つ


誰でも見たことのある光景だろうが、上手く詠んでいる。この句なども歳時記などに収録されてよさそうだが、知る限りでは無い。


また師は、随筆等の文章の名手でもあり、「ホトトギス」にも文章が多く掲載されている。

この本の中にも色々な金言があるが、一節だけ選んで紹介したい。

俳人は、同じことをくり返して喜んでいる、新年がくれば、正月の俳句、三月がくれば、御花見をして句を作る。だが無駄ではない。くりかえすが故に、深く考え、深く味わう。
深く考え、深く味わい、且つ迷うが故に、飛躍する。そこに進歩がある。
スポンサーサイト



高柳克弘 『未踏』『寒林』

 

図書館で小川軽舟氏の句集『朝晩』を借りようと思ったが未入荷で、決して「代わりに」というわけではないのだが「鷹」編集長・高柳克弘氏の句集『未踏』と『寒林』を借りてきた。(「高」は本来は「はしごだか」)
図書館は既に閉館となり、貸出期限が延長となったのはいいのだが、予約(貸出中だったわけではないが書庫からの取り出しをネットで注文)しておいた『芭蕉七部集』も借りられなくなった。

まずは『未踏』(H21.6刊)から。

ことごとく未踏なりけり冬の星

「第一句集には初学の頃の句も入れるべき」とのことだが、この句は「鷹」に入会された翌年のもの。
恒星群はもちろん未踏(近づいたら燃えてしまう)だが、近くの火星や金星も人類未踏。逆に月には人類が既に到達していることの対比が「ことごとく」で強調されている。

蝶々のあそぶ只中蝶生る

これも「鷹」入会2年目の句。あの湘子が句歴の浅い会員に重季を許すとも思えないのだが、思い切ってこの句を出したのか。
また「取り合わせ」ではなく、これ以上にない「蝶」の一物仕立てである。

またこの作家は、いくつかの季語を繰り返し使われる傾向にある。
この「蝶生る」もそうであるし、「白桃」や第2句集のタイトルでもある「寒林」なども。
これの効能は、何といっても特定の季語についての理解が深まること。そうやって一つ一つ、季語の本意に迫って行けば、自ずと名句へ近づいて行けるということであろう。

絵の中のひとはみな死者夏館

油絵の掛かったヨーロッパの屋敷か古城を思わせるが、果たしてそうだろうか? 例えば詩仙堂なら? 山中の庵で掛軸の虫干しをしている図にも思えます。

ナイターの果ての球場遺跡めく

コロッセオを思わせますが、灯が落ちて観客が一斉に家路に向かう寂しさを上手く表現しています。

ダウンジャケット金網の跡すぐ消ゆる

若者らしい一句。どこの金網だろう? 一緒にいる人は? 色々な想像ができます。


第2句集『寒林』(H28.5刊)

皆既日蝕ゼリーふるへてゐたりけり

2009年の皆既日食は7月22日。この頃まだ私は俳句を初めてなかったので、この後のことと思いますが、奥様の神野紗希さんがテレビで「ゼリー」の季語では代表句がない、と仰られていましたが、この句はその候補になるのでは? 作句日が特定できるのもいいですね。

ソーダ水をんな木馬に乗せておく

愛妻家ならではの一句? こういった露悪的な表現も魅力。

ぺらぺらの団扇を配る男かな

団扇は年々ちゃちになっていますが、おそらく穴の空いた紙の団扇を、配っている男も「ぺらぺら」であろう景が見えてきます。

清水舞子 『句帳より』

このブログにも度々登場する、地元成田の吟行句会「千草句会」。
指導者である「桑海」主宰・清水舞子先生の句集『句帳より』(H30.7刊)を鑑賞したい。
2005句帳より

平成22年に主宰となられてからの句を集められたとのことであるが、「桑海」誌の主宰詠のタイトルは「句帳より」であり、大変率直なタイトルとなっている。
2005桑海主宰詠

「桑海」はホトトギス直系であり、舞子先生も「ホトトギス」の同人(「どうにん」と読むらしい)であり、序文は稲畑廣太郎先生。

生ビール小出しに本音吐いてをり
枝豆や言はぬと決めたこと洩らす
悔いといふ時効なきもの墓洗ふ


「花鳥諷詠」だけでなく、このような心情句もあるが、「客観写生」に徹しているところはさすがといえる。

あるやうなないやうな陣鴨の池
蜂の巣に隣家の行き来断たれたる
合羽着てめいわくさうな梅雨の犬


俳諧味があり句意明瞭。どれくらい修練を積めばこの域にまで達することが出来るのか。

うなぎ屋の急段階の暗さかな

「段階」は広辞苑では「だんばしご。きざはし。階段」とある。老舗の昔ながらの細く急な「きざはし」を思わせる。鰻屋ではないが、千葉では佐原の老舗蕎麦屋「小堀屋」がこんな感じである。

踏めば歯をむき出しにして霜柱

これは擬人化というのだろうか? 「むき出し」という強い言葉を使いながら、落ち着いた表現である。

出店いま雑魚完売の焚火かな

私が初めて「千草句会」に参加させていただいた吟行地での一句。平成29年12月だったが、印西市の白鳥飛来地には地元の方が野菜や印旛沼名物の雑魚の佃煮などを売られていたが、雑魚には「完売」の札が出て、その前には一斗缶の焚火があり暖をとれるようになっていた。まさに見たままを十七音に乗せ、吟行に参加していなくても(読者なりの)景が見える。

伊藤伊那男 『然然と』


「銀漢」主宰・伊藤伊那男氏の俳人協会賞受賞作。

現在では神保町「銀漢亭」のオーナーとしても有名であり、私も何度かお邪魔して有名俳人の方とお話させていただいたこともある。

「自分に引き付けて詠む」とは俳句の指導でよく言われることであるが、この方はまさにそれに相応しい句柄をお持ちである。

早苗饗に出す家中の皿小鉢

早苗饗には限らないが農村部ではこういった祝い事は「宿」が持ち回りだったりする。そのため座卓、座布団、湯呑の他に皿小鉢もそれなりの数が用意されているのだ。

どうみても悪夢見さうな厚蒲団

日本人の使う蒲団はここ数十年ですっかり軽くなった。地方の旅館などでは未だにこんな蒲団を使っていることもあるのだろう。納得の一句。

浮舟の入水のあたり茶摘唄

現在はアニメ作品などの「聖地巡礼」も一般的になったが、古来より「歌枕」の文化はあり、また源氏物語もフィクションではあるが実在の舞台は登場する。野々宮、住吉、須磨、明石、、、宇治川を見れば無論、浮舟を夢想する。

股引をもう見られてもよき齢

将来、氏の代表句になるのではと密かに思っている一句。少なくとも今後の歳時記の「股引」の項には全て載りそう。

泣く孫を預かり秋思うやむやに
初電話なんと二階の子供から


氏はまた家族詠の名手でもある。
私は大景を詠むのが苦手で、人事句、特に家族詠が多くなりがちなので参考にさせていただきたいところ大である。

蝮酒二日ほどしてして少し効く

本当だろうか? とリアリティに関しては疑念の余地もあるが、何故か説得させられてしまう一句。

成田まで叱られにゆく初不動

成田山の本堂に上がり、前の方ならご本尊である不動明王のお顔をうっすら拝す事が出来る。まさに憤怒の形相であり「初不動」の季語の本意を見事に言い表わされている。

佐々木建成 『青き踏む』



「天穹」佐々木建成前主宰の第1句集『青き踏む』。2007年4月刊。

夏つばめ借景のビル袈裟斬りに

まさに言い得て妙。「夏つばめ」「借景のビル」「袈裟斬り」に過不足なし。

生真面目もせつかちも性蟻の道
心当てに打つ暗闇の蚊を逃がす
世話係目高覗いて下校しぬ


世話係が世話をする姿を描写するのではなく「覗く」ところが新鮮。

火口湖を手鏡として山粧ふ
会ふだけは会つてごらんよ葛桜


縁談を勧める常套句に「葛桜」の取り合わせ。適齢期の娘と世話焼きの伯母さん(?)あたりの景が浮かぶ。

山寺のこんにやく熱き翁の忌

かの「山寺」と翁忌を組合せるのは季の違いから難しいと思われるが、「こんにやく」で繋ぎ合わせるとは!

鮟鱇のどことも知れぬもの煮立つ

鮟鱇の形態・容貌を詠んだ句は数多あるが、「どことも知れぬ」と大胆に言い切っている妙味。

笹粽ほどき歳月巻き戻す

笹粽の季節ですね! ぐるぐるぐるぐる巻き戻して笹を解く仕草は確かに歳月も取り戻す気がします!
プロフィール

鈴木霞童

Author:鈴木霞童
平成25年「天穹」入会。30年同人。
定年後に専門俳人になることを目指して修行中。

ブログランキング
ブログランキングに参加しています。 クリックで応援して下さい!
最新記事
カテゴリ
カレンダー
06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
最新コメント
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
リンク
初心者向け基本書籍
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR